子の引き渡しの方法
夫婦が別居する際,若しくは別居中、一方が子どもを連れ去った場合において、子どもを返して欲しい時には、子の引き渡しを請求することとなります。
子の引き渡しにおいて最も重要なことは、迅速な対応です。
裁判実務では、子どもの心身の成長や生活環境の安定のために、子どもの生活環境は安易に変えるべきでないと考えられています(現状維持の原則)。
そのため、子が連れ去られて時間が経つと、子を連れ戻すのが難しくなります。このことからも、子の引き渡しについては、適切かつ迅速な対応が要求されます。
子の引渡しを求める手続・方法としては、家事調停・審判、人事訴訟、人身保護請求、民事訴訟、刑事手続きがあります。
家事調停・審判について
ア 子の引き渡し請求の手続き
子の引き渡し請求は、子の監護者の指定、その他子の監護に関する処分として、調停を申し立てることも、審判を申立てることもできます。
申立権者は、子の父又は母です。なお、父母以外の申し立てについても、祖父母などの子の親族や事実上の監護者にも子の引き渡し請求を認められることがあります。
また、子の引き渡しをめぐる紛争は緊急性を要することが少なくないので、調停又は審判の確定前に、子の引き渡しの仮処分を申し立てることもできます。
イ 子の引き渡しの判断基準
家事審判においては、以下のような子の引き渡しの判断基準がありま す。以下の要素を、子の発達段階、継続性のガイドライン、子の意思の尊重という各視点から判断されます。
〈子の福祉実現のための一般的基準〉
- 子の現状を尊重する
- 幼児については母を優先する
- 子の意思を尊重する
- 子について物質面より精神面を重視する
- 育ての親より、血のつながりのある親を重視する
- 兄弟姉妹は原則として分離せず
- 婚姻中に不貞があったなどの有責性はあまり重視しない
〈父母の諸条件の比較衡量〉
- 養育能力
- 心身の健康、性格
- 子に対する愛情、熱意
- 監護の継続性
- 経済力
- 居住条件
- 監護補助者その他の援助体制の有無
ウ 子の引き渡しの執行
家事審判において、子の引き渡しを命ずる審判または保全処分が発令され、相手方が任意に子の引き渡しに応じない場合は、強制執行を検討します。
実務上強制執行のうち、間接強制(子を引き渡さない場合に金銭を支払わせることで、心理な強制を図ること)による方法にて行われます。
審判前の保全処分
子の引き渡しをめぐる紛争は、緊急性を要することが少なくないので、調停又は審判の確定前に、子の引ぉ渡しの仮処分を申立てることもできます。
申立権者は、原則として、子の父又は母です。子が15歳以上の場合は、原則としてその子の陳述を聞く必要があります。保全処分においては、家事審判における子の引き渡しの判断基準に該当する事実や、相手方の下では子の生活に危険性や不安があることを主張することになります。
虐待の恐れがある場合等、子の引き渡し請求を早急に行う必要がある場合には、審判前の保全処分の申立ても同時に行うべきです。
人事訴訟について
人事訴訟法に基づいて、離婚訴訟等の附帯請求として子の引き渡しを請求することができます。また、審判前の保全処分の申立てもできます。
人身保護請求について
ア 人身保護請求の意味
人身保護請求手続きとは、正当な手続きによらないで身体の自由を拘束されている被拘禁者について、拘束から開放し、自由を回復させることを請求する制度です。
人身保護請求により子の引き渡しが認められる要件
- 子が拘束されていること
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イ 人身保護請求の手続き
人身保護請求の請求者は、子と特別な関係のある者に限定されています。請求にあたっては、特別の事情がある場合を除いて、弁護士を代理人としなければなりません。
管轄裁判所は、被拘束者、拘束者または請求者の所在地を管轄する高等裁判所または地方裁判所になります。
人身保護請求に関する審理及び裁判は、他の事件に優先して行われ、請求のあった日から原則として1週間以内に期日を開く必要があります。
裁判所は、判決前に人身保護命令を出すことができます。この命令により、子は裁判所の指揮の下に、当該拘束者によって監護されることになります。裁判所は、人身保護命令に従わない拘束者に対し、勾引しまたは命令に従うまで勾留すること、ならびに遅延1日につき500円以下の過料に処することができます。
被拘束者を請求者に引き渡す旨の人身保護判決がなされた場合、命じられた内容を実行しないときは、2年以下の懲役又は5年以下の罰金に処せられます。また、上記の人身保護命令により、裁判所の職員が事実上、出頭させた被拘束者を預かり、判決言渡しと同時に、子を請求者に引き渡すという方法が取られています。
なお、実務上ほとんどこの請求を行うことはありません。
民事訴訟について
民法上明文の規定はありませんが、親権または監護権に基づく妨害排除請求として、子の引き渡しを請求することができます。
刑事手続きについて
子の連れ去りが略取行為と評価できる場合には、告訴等による刑事司法の介入(行為者の身体拘束、警察官による説得など)により、子を取り戻すことができます。
監護者指定
子どもと一緒に家を出た場合、他方の配偶者が子どもを連れ戻しに来るような場合があります。このような場合、子どもが互いに連れ去り合いに巻き込まれないように、監護者指定の申し立てを行い、自己が監護者として定めておく必要があります。
また、子どもが連れ去られたような場合には、子どもの引き渡し請求と同時に子の監護者指定の申し立てを行うことが通例です。
解決事例
- 離婚後、親権者は妻であったが、夫が,面会交流が終了しても妻に子どもを戻さないため、子の引き渡し請求を求めて、妻への子の引き渡し請求が認められた事例。
- 夫が、妻を追い出し、事実上子どもの監護を行うようになった状況において、子の引き渡し及び監護者指定の申し立てを行い、妻が監護すべきであるとして子の引き渡しが認められた事例。
- 夫婦間で別居する際、妻は長男を、夫は長女を連れて別居した事例において、妻から長女の引き渡し請求を行い、その引き渡しが認められ、妻が養育監護すると定められた事例。
よくある相談例
- 妻が子どもを連れて出ていき、子どもと会えなくなったので、どうしたらよいか。
- 夫が、妻のみを家から追い出し、子どもと一切会わせないため、どうしたらよいか。
- 別居を予定しているが、子どもを連れて出てよいか。
弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所の取り組み
子どもを連れて家を出ていかれた、家を追い出され、子どもに会わせてもらえない等、突然お子様と会えなくなる場合があります。
このような場合、子の引き渡しの請求を行うべく、早急に調停の申し立てを行うことが重要です。時間が経つにつれて,現状維持の原則より不利になる場合があるため、早急に申し立てを行わなければなりません。
もちろん面会交流の申し立ても早急に行う必要がありますが、その他、審判前の保全処分の申し立てなど、申し立ての件数が複数になることがあるため、早期に弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所では、ご依頼後1週間以内の申し立てを目指し、準備を行っていきます。
お子様と会えないという状況は、精神的な負担が大きく、不安が募りますので、弁護士と相談しつつ方針をしっかり固めていくべきです。
当事務所では、子の引き渡しや監護者指定を行うべき事案においては、スピードを最も重視しており、ご相談者様が今より少しでも良い状況になるよう全力でサポートいたします。
子どもの連れ去り問題でお悩みの方は,まずは当事務所にお気軽にご連絡下さい。